2008年11月03日

「イントゥ・ザ・ワイルド」

 裕福な家庭環境で育った青年クリス・マッカンドレスは優秀な成績で

大学を卒業しながら、家族にも黙ったまま中古の車で旅に出る。真理を

追究するために。

 行く先々で出会った人たち。ちょっと年齢の離れた兄のような農家の

男性。親と同世代くらいのヒッピーの夫婦。高齢で一人で革細工を作り

ながら暮らしている男性。だれもがクリスを弟や子どものように慈しむ

がクリスは黙って彼らの元を離れて旅を続ける。人との穏やかな関係に

浸りそうになる気持ちを振り切るようにして一人旅を続ける。

 映画を見る前は自然に身を置いて、そしてどこか自死をも一つの選択

肢として北に向かった青年の話かと思っていた。だから私の心の中に

「若い人はこういう感傷と持つことがある」という気持もないとはいえ

ない気分で見ていたが、そんなステレオタイプな話ではないと気がつい

たら俄然映画が面白くなった。

 随所に出てくる小説からの引用は彼がずいぶんと思索しながら生きて

きた姿をさりげなく示している。

 親に居所を一切告げずに旅立った背景も時折はさまれる回想シーンで

描かれる。クリスの家庭環境が外見からは分からない複雑さを抱えてい

たから彼が思慮深くなっていったのか、もともとそういう性格だったか

らなのかはわからない。

 自分の生い立ち、嘘と欺瞞で取り繕った家族、そうしたものを超越し

たものを追求するために北に歩を進め、誰も入ってこない荒野に一人で

自然の恵みを食べながら暮らし始める。

 そこで彼は親が与えたクリス・マッカンドレスをの名前を捨て、別の

名前を日記に記す。

 今までの自分を荒野ではいったんリセットする。彼の背負ってきた

「履歴」をゼロにして新たな自分を作り上げたい、見つけ出したいとい

う彼の決意表明。

 そして厳しい季節が来る前に彼は再び荷造りをしてもと来た道を戻ろ

うとするが、大いなる誤算が待ち構えていた。彼は現実の生活に戻りた

くなかったわけではなく戻るのが前提で荒野に足を踏み入れた。だが、

運命は皮肉にも彼の意図したようには回ってくれない。

 そして足止めされる中、彼は再びもとの名前を日記に書きクリスに戻

る。戻るけれども「以前の自分とは違う自分」を彼は見つけ、名前にこ

だわらない自分を作り上げたのだと。

 最後は悲劇的だったが涙は出なかった。

 実話からショーン・ペン監督が制作した本作。ここしばらくあまり心

を打つ作品に出会えてなかった私にはクリスの哲学的な生き方がとても

新鮮で久しぶりのショーンペン監督に脱帽。
 
posted by ほたる at 20:48| Comment(4) | TrackBack(1) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちわ。
この映画、そんなによかったですか?
読みが深いですね。
私は、音楽や妹のナレーションが肌に合わず、イライラしました。
たしかに主人公とアラスカの場面には感動しましたけれど。
ところで、昨日(30日)「この自由な世界で」
(i'ts a free world...)見てきました。
「麦の穂を揺らす風」に劣らず良い映画でした。
ケン・ローチ監督は大好きです。
Posted by bbm∞ at 2008年12月01日 09:06
 お久しぶりです。
 この映画、彼が自分の名前を捨てるシーンからが良くなりました。私は旅の途中で出会う人とのふれあいが「なくてもいいのに」と感じてしまいました。
 ブログにはまだ書いていませんが「この自由な世界で」も見ましたよ。良かったですねえ。彼女のすさまじさは一皮むけば誰にもありえる話でリアルに思えました。すさまじいって言っちゃいけないのかもしれませんね。
 政治もそうだし、仕事上でもそう、近所付き合いでも・・。結局要領いい人が体制に乗っかって上手に泳いでいる。たまに溺れそうになるけれど・・・。
 「この自由な世界で」は、したたかさは健在と再確認させてもらえました。
 その対極がイントゥ・ザ・ワイルドに思えました。したたかにも生きられず、人を引きずり下ろしもできない繊細さが彼をアラスカへ向かわせ、自分を真っ白にしたかった。
 泥にまみれるか純粋を守るか・・・・
 難題です。
Posted by ほたる at 2008年12月01日 18:41
再コメントごめんなさい。
私は「イントゥザワイルド」は「ブロークバックマウンテン」と、
よく似ていると思いました。
ただ、社会の網から落とされていく人間と、
自分から落ちていく人間の違いだと思います。
それを意識しているクリスは立派だと思う。
でも、男の私を癒してくれるのは、イニスやジャックなんです。
Posted by BBM∞ at 2008年12月02日 07:57
 わたしのほうこそ、BBM∞さんのバックグラウンドも知らないでいろいろ書いてしまいました。
 私の鑑賞感想文は表面的にしか書いてないので気にしないでくださいね。
 といいつつ、なんだかもやもやしていたものがBBM∞さんのご意見で気づかせてもらえ、明確になってきたので書きたくなりました。

 クリスは極限に身を置いたけれどもあくまでもいずれは、たとえば悟りを得たら現実の世界に戻るという前提でアラスカに身を置いているのでそこは彼なりの計算はあったんですよね。私はその計算を嫌悪する気持ちと仕方ないと受け入れる気持ちの狭間に落ち込むしかなかったのに、彼が現実の世界に戻りそこなってしまった結末のおかげで二つの気持ちに引き裂かれなくて楽になってしまいました。(笑)
 
 BBM∞さんの癒しを求める気持ちはとても大切なんですよね。また、ゆっくり話せる時間が持てるといいですね。
Posted by ほたる at 2008年12月02日 09:36
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